【体験記・防災に女性目線を】被災地視察㊦ 女将の行動力に感銘

【体験記・防災に女性目線を】被災地視察㊦ 女将の行動力に感銘

 八戸市で開催した「女性防災リーダー育成プログラム」(一般社団法人男女共同参画地域みらいねっと主催)の一環で6月下旬、東日本大震災の被災地視察に参加した。視察の後編は宮城県南三陸町や石巻市に関する話題をお伝えする。

【女将の覚悟】

中心部の大半を津波で失い死者620人、行方不明者211人と深刻な被害を受けた同町。「南三陸ホテル観洋」で女将(おかみ)の阿部憲子さんに体験談を聞いた。

 高台に位置するホテルは2階まで浸水し、停電と断水に見舞われたが、行き場を失った住民が着の身着のまま続々と避難して来た。女将は「住民の信頼に最大限の努力で応える」と覚悟を決め、2次避難所の役割を終えるまで約半年間、被災者を受け入れ続けた。

 避難住民の生活環境充実にも腐心した。孤立を防ぐためさまざまなイベントを開催し、子どもたちの学習支援でそろばん教室や英会話レッスンも開設。一方で「働く場を確保し一人でも多く町に残ってもらおう」と、事業の早期再開にも尽力。町内の店巡りを促すスタンプラリーも発案した。経営者として、地域全体を引っ張るリーダーとしての責任感に満ちあふれた行動に強い感銘を受けた。

【語り部バス】

 震災を風化させず、将来の防災・減災につなげようとする同ホテルの取り組みが「語り部バス」だ。ホテルスタッフの案内で町内を巡った。小学生が歌で励まし合いながら救助を待った神社、屋上で300人以上が身を寄せ合い難を逃れた民間ビル「高野会館」、放送で避難を呼びかけ続けた町職員らが命を落とした旧防災対策庁舎…。

 現場を目の前にし、被災者が感じたであろう恐怖や生への渇望が驚くほどの立体感で胸に迫った。悲痛な体験を想起させる建物の保存を望まない声があることは承知しているが、それでも災害を自分事として捉えるため、震災遺構の訪問は重要だ。防災のともしびを次世代につなぐ。その役割を私たちが果たさなければ―との決意を新たにした。

【まちづくり】

最後の講話は、石巻市河北総合支所職員の今野照夫さん。震災で支所は全壊し、職員の半数以上が犠牲となった。今野さんも津波にのまれながら奇跡的に助かり、復興と伝承に取り組んできた。

 印象に残ったのは、集団移転に向けた合意形成のプロセスだ。行政が一方的に案を示すのではなく、教育機関や建築家、地域活動団体の協力を得て、住民とワークショップを重ねた。当初、出席者は世帯主の男性ばかりだった。ただ、議論が行き詰まった時、打開したのは女性の意見。未来志向で目指すコミュニティーの在り方を定め、住む場所も全員の希望を反映できたという。

 地域の将来を左右する選択について今野さんは「住民自身がとことん話し合うことが重要。女性と男性、互いの意見を尊重しながらいい意見をつくり出せれば」。この視点を忘れず、今後の活動につなげたい。

【写真説明】

震災時の行動や心境を語る女将の阿部憲子さん=6月22日、南三陸町

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