能登半島地震では、住宅被害が石川県だけで7万8千戸を超えた。国の「住宅・土地統計調査」を基にすると、特に大きな被害を受けた珠洲市、輪島市、能登町は、現行の耐震基準が導入されていない1980年以前に建てられた住宅の割合が6割前後あり、被害拡大につながった可能性がある。北奥羽地方で、この割合が最も高かったのが洋野町(46%)だ。背景には、少子高齢化をはじめとする地方衰退の諸要因が密接に絡んでおり、解決は容易ではない。
「種市駅前は、今の洋野町役場種市庁舎から種市郵便局の間に、最盛期で100軒近い店舗がひしめいていたんだよ。でも、今営業しているのは十数軒くらいかな」。庁舎前の沿道で長年、時計眼鏡店を営む青井均さん(70)は現状について寂しげに語った。
青井さんの鉄骨造り2階建ての店舗兼自宅が完成したのは85年。81年からの新耐震基準に適合しており、「(2011年の)東日本大震災でも商品の壁掛け時計が一つも落ちなかった」のが自慢だ。その一方、周辺には旧耐震基準の建物も少なくない。廃業後も自宅部分に住み続ける住民は多いが、独居高齢者の数が増え、空き家も目立ち始めてきた。
町は06年度から家屋の耐震診断・改修に対する補助事業を実施しているが、現在までの利用件数は診断が99件、改修が1件と、動きが鈍い。住民の約半数が65歳以上という高い高齢化率も悩みの種だ。
種市駅前商店街振興会長の大入一弘さん(69)は「例えば、経済的に苦しくて店を閉めた商店街住民が、家屋のリフォーム費用を捻出するのは至難の業。子どもたちが町を離れて働いているケースだと、継承者がいない家屋を改修する動機自体も薄くなる」と、住民の思いを代弁する。
さらに同町種市地区の場合、地震の恐怖は家屋より、津波に向けられやすい。町総務課防災推進室の小林伸幸室長は「東日本大震災の時ですら、震動による家屋倒壊は1件もなかった」と指摘。日本海溝・千島海溝巨大地震の想定では、最大クラスの津波の場合、種市庁舎周辺が浸水する恐れがあり、町はその対策に追われているのが現状だ。
ただ、現行の耐震基準に満たない家屋が老朽化すれば、倒壊の可能性が高まるのは目に見えている。町消防団の団長でもある大入さんは「津波からの避難が最優先だが、倒壊家屋があると生存確認にも時間を要するだろう」と懸念する。
町内の推定空き家数は22年時点で1022戸。調査方法が異なるものの、空き家率は17年調査の7・8%から13・7%へと大幅に増した。町は空き家の活用と、倒壊の恐れがある空き家の解体の両面を進める方針だが、軌道に乗ったとは言い難い。
「要するに、平時からの少子高齢化、人口減の問題が、防災にも影響している。何か抜本的な解決策はないものか」と頭を悩ませる大入さん。青井さんは「家屋の一部屋だけでも耐震化を施すなど、命を守るための対策に力を入れてほしい」と訴える。
【写真説明】
現在の種市駅前の商店街。「シャッター街」化が進み、空き家も増えている=8日、洋野町種市