【北奥羽未来考】第2部「悩める自治体」⑤ 膨らむ防災対策

【北奥羽未来考】第2部「悩める自治体」⑤ 膨らむ防災対策

 2016年11月、久慈市湊地区に鉄骨2階建て、高さ約9メートルの避難タワーが完成した。事業費約1億5千万円は国の東日本大震災復興交付金制度を活用。津波からの緊急避難場所として建設された。

 だが、わずか4年半後の21年4月、市は避難タワーを指定避難場所から除外した。国が20年に公表した日本海溝・千島海溝沿いを震源とする巨大地震の津波浸水想定で、市中心部の浸水深が最大10メートルとされ、避難タワーを上回ったためだ。

 市防災危機管理課によると、湊地区の緊急避難場所は高台にある金刀比羅(こんぴら)神社を指定。27年4月の開校を目指して市立久慈湊小校舎の移転新築工事も進められ、新校舎の屋上も活用できる見通しだ。

 住民の安全を確保するめどは立ったが、せっかく整備した避難施設が使用できなくなる事態は、想定によってどこまでも膨らむハード対策の難しさを突き付けた。

 同市は現時点で新たなハード整備を検討していない。同課の担当者は「市の財政は厳しい状況。当面はソフト対策に力を入れる」との認識を示した。

 従来の想定を大きく上回る津波で、広範囲に甚大な被害をもたらした東日本大震災は、日本の防災の在り方を根本的に見直す契機となった。

 同年12月には「津波防災地域づくりに関する法律」が成立。国は都道府県に最大クラスの地震を想定し、市町村はそれに応じてハード・ソフト施策を総動員させるよう求めた。

 巨大地震で最大26・1メートルの津波高が予測される八戸市でも対策が進む。市は今年3月、津波避難施設の整備などに関する基本方針案を策定。徒歩での避難が困難となる地域の解消を目指す。

 約1万8千人が生活し、エリアも広い下長地区では市立下長公民館を津波避難ビルとして建て替え、避難路を整備。根岸、下長両地区の馬淵川沿いに津波避難タワーを1棟ずつ新設するほか、被災地域からの避難者受け入れを想定し、市立大館公民館も建て替える。

 概算整備費は137億6400万円。市危機管理課によると、「津波避難対策緊急事業計画」を作成することで、国の負担割合が最大3分の2までかさ上げされる見通し。国や青森県と詰めの協議を行っている。

 河原木団地、高館両地区と共に、以前から避難ビルや避難路の整備を求めていた下長地区連合町内会の佐々木勝紀会長(78)は「要望がかなってよかった。住民の被害が少しでも減るようできるだけ早く整備してほしい」と期待する。

 防災士でもある同課の館合裕之課長は「市は防災だけに予算を使うわけにはいかず、バランスを取らなければならないのが難しい」としつつ、「どうしても逃げ切れない人が想定される以上、行政がハード整備をしなくてはならない」と意義を強調。防災施設の多目的化や維持管理費の低減といった効果的な対応を講じる考えだ。

【写真説明】

久慈市に整備された津波避難タワー。2016年の完成後に示された浸水想定で高さ不足となり、避難場所の指定を外された=20日
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