八戸市で開催した「女性防災リーダー育成プログラム」(一般社団法人男女共同参画地域みらいねっと主催)の一環で、6月22、23の両日、東日本大震災の被災地である宮城県石巻市と南三陸町を訪れた。災害の悲惨さを伝える遺構を見学し、さまざまな立場で復興に携わってきた住民の話を聞くことで、命を守るために必要な備えや環境づくりの大切さを学んだ。印象的な視察先や講話を、前後編に分けてお伝えしたい。
【石巻市立門脇小遺構】
JR八戸駅からバスに揺られること約4時間、宮城県石巻市の「震災遺構門脇小学校」に到着した。3階までぼろぼろの外壁とは対照的に、屋上にはくっきりと鮮明な「すこやかに育て心と体」の文字。この場に確かにあった、子どもたちの日常に思いをはせる。
同校は大津波に加え、流されてきた住宅などから引火し、火災にも見舞われた。学校にいた児童224人と教職員は裏山に避難し無事だったが、地域では既に下校していた児童を含め、500人を超える住民が命を落とした。
校舎の中はさらに悲惨な状態だ。焼けて骨組みだけになった机やいす、熱でひしゃげた黒板、床に積もった灰やがれきが、津波火災の激しさを物語る。
多くの児童の命が救われたのは、年2回の避難訓練が大きい。学年をまたいだ「縦割り活動」により、上級生が下級生に手を貸す習慣が身に付いていたことも知り、これらの備えが危機的状況でも適切な避難行動を可能にしたと実感した。
【地域防災の実践例】
仙台市宮城野区で地域防災に携わり、せんだい女性防災リーダーネットワークの代表も務める大内幸子さんからは、示唆に富んだ講話を聞くことができた。
大内さんの住む福住町は二つの川に挟まれ、たびたび台風や集中豪雨による水害に見舞われてきた。「できるだけ行政に頼らない地域力が必要」と、2003年に自主防災組織を結成。全住民の名簿整備や防災訓練、市内外の団体との災害時相互協力協定など、独自の取り組みが“福住町方式”として注目を集めた。
感心したのは、防災訓練に住民が参加したくなるような工夫だ。町内の小中学校も巻き込み、大声コンテストやバケツリレー、救助犬の実演など多彩なイベントを取り入れる。「女性が地域防災を担うことで多様な人を巻き込み『わかりやすい、楽しい、やさしい』防災を広めたい」との理念に共感する。
震災時、こうした備えが生かされ、安否確認や炊き出しの準備などを住民で分担し、スムーズに行動できたという。男性リーダーが多い中でも、高齢者ら災害弱者に目が届くのは主に女性だったといい、女性リーダーの必要性を訴えた。
感銘を受けた活動や助言はほかにもあるが、特にこの言葉を胸に刻みたい。
「防災は日常生活そのもの。備える、知識を得る訓練する、そして忘れない。それが命が助かること、命を助けることにつながる」
【写真説明】
津波と火災に見舞われた門脇小跡地。震災遺構として市が保存・管理している=6月22日、宮城県石巻市