災害発生時にマンションの住民が迷わず行動できるよう、大手不動産デベロッパーが備えを強化している。防災備蓄品は建物の奥に収納され、いざというときに迅速に対応できない課題がある。取るべき行動や備品の使い方を分かりやすく掲示したり、身近な場所に置いたりして目に触れやすくする“見える防災”で意識向上にもつなげる。
1月に完成した野村不動産の「プラウドタワー平井」(東京都江戸川区)の防災倉庫には、約80種類の防災グッズが保管されている。壁にはイラスト付きで「災害対策本部の立ち上げ」や、人命救助といった「初動対応」、防災グッズの使い方を解説したパネルが並ぶ。パネルは時系列に沿って掲示し、必要な防災グッズもそばに展示した。
共用部となるラウンジのソファには座面を取り外せる収納をつくり、中に防災備品が入っていることが分かるよう大きく目印を付けている。
対策のきっかけとなったのは2024年8月の南海トラフ地震臨時情報発令だ。社内で災害対応の強化を巡り議論し、防災備品が一目で分かる「見せる防災」と、生活の動線上に保管する「しまう防災」の両方を、同年10月以降に設計する新築分譲マンションシリーズ「プラウド」の全物件で導入する方針を決めた。
「防災の取り組みを機能させるには可視化することが必要だと考えた」。担当者は方針の意義について力を込める。
入居者の人間関係がより希薄な賃貸マンションでも備えが進む。三菱地所レジデンスは22年、防災の専門家と、災害時の行動や備品の使い方を記したカードを作成した。
「救護」「トイレ」など5種類のカードが100枚近くあり、指示に沿った動きを促す。東京都や神奈川県にある一部物件の共用スペースに既にカードボックスを置いており、賃貸マンション「ザ・パークハビオ」シリーズで設置を進めていくという。
全国で1400団地を管理する都市再生機構(UR)では、2カ月に1回発行しているコミュニティーペーパー(住宅管理報)で定期的に防災特集を組んで各戸に配布している。防災の専門家をUR賃貸住宅の自治会などへ条件に応じて派遣し、講演会を実施したり、防災訓練の事前準備でアドバイスをしたりする制度も整えた。
URの担当者は「大規模な団地では災害時に管理者だけで対応するには限界があり、自助や共助の意識を高め、備えを強くしてもらいたい」と指摘。外国人居住者の増加に伴う情報共有や理解の促進も課題に挙げた。
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